「マニフェスト改革」の視点から抜けおちたもの
市民のくらし・福祉の向上/「耐震偽装」の反省 = 公的役割の大切さ
市労組は市民のライフラインを損なう交通・水道・環境事業の民間企業への売り渡しに反対です
「財政非常事態」が市政改革の始まり
職員削減・「厚遇」是正市民サービス切り捨て
大阪市改革の出発点は、膨大な借金を抱える大阪市の財政事情です。 この財政危機の原因について、上山信一氏も「誰の目にも明らかなハコモノ過剰投資」(猪瀬メルマガ)と述べているように、三セクや土地信託事業の破たん処理が市財政を圧迫していることは誰の目にも明らかです。ところが、マニフェストでは、三セク破たんについて「見直しを怠ったことから経営が破綻し、その再建に多額の本市負担を余儀なくされるに至った」と認めつつ、「まず『身の丈』にあった市政にしよう」と、巨大開発・三セク支援を続けるとい
う根本的なムダは改めず、逆に、失政のツケを市民に押し付けることを表明しています。
「職員厚遇」が財政赤字の原因だとした労働条件の一方的な切り下げは、さらに職員の大幅削減と成績主義賃金の導入が狙われ、市民のくらし・福祉の向上も見捨てられます。
マニフェストは民間企業による「行政評価」が重要だ!
上山氏推薦の経営コンサルタント企業による「事業分析」作業
上山氏は、マニフェストをつくるにあたり「行政評価」を極めて重視します。しかも、大阪市では事業評価システムが既に確立し、毎年公表されていましたが、市職員による評価は「戦略性やめりはりは期待できない」と否定され、あえなく「凍結」となり、外部メンバーによる「事業分析」としてすすめられました。この昼夜敢行の半年間の作業を担ったのが、経営コンサル企業です。
しかも、地下鉄事業、下水道事業、道路・河川管理、市街地整備、公園管理、市営住宅営繕部事業、環境事業、市バス事業などの主要事業の分析を担当したのは、上山氏が推薦し「随意契約」で請け負った「ボイヤンシー」です。
このボイヤンシーの経営者は、マッキンゼーの元「研究員」であり、「上山氏からも高い評価を受け、推薦があった」といいます。
大阪市の主要事業に係わる全ての資産・データが、民間企業の手に委ねられたのです。
事業分析でわかった大阪市の都市基盤の実力
そこで「資産の流動化だ!」
コンサルタント企業による「事業分析」を通じ、上山氏は大阪市の「都市基盤の実力」を把握することになります。そのことを「事業分析の威力」だと自画自賛したうえで、「どうやら資産の蓄積は豊かだが町も個人も先細り傾向のようだ。ならば資産の流動化だ。余剰の土地・建物・株式を売ったり貸したりする」という結論に結びつけます。
国民健康保険の加入者が他都市と比べて多く、生活保護者が激増する大阪市。地域経済を支えてきた地元中小零細企業の疲弊の状況には、「先細り傾向のようだ」と吐き捨てる一方で、市民の共有財産である大阪市の土地・建物・株式を「流動化」しようというのです。
これでは、マニフェストと「事業分析」作業は、市民の共有財産を、財界の儲けのために切り売り・貸出しする「仕訳作業」だったと言わなければなりません。
経営コンサルタントによる「作業」は、関西財界のために大阪市役所を切り売りするフローチャートづくりだったのか
「格差社会」は「構造改革」で加速する
社会的弱者(高齢者・障害者・子ども)はタックス・イーター
市民税の納税通知や国民健康保険料の決定通知が出された先月、区役所の担当窓口は高齢者・市民の応対でまさにパンク状態でした。小泉「構造改革」の本質がいよいよ明らかになったのです。
上山氏は、昨年4月のコラムに大阪市役所の職員の厚遇批判と関連させ、国民も税金をムダに使う「害虫」扱いしていました。だから、市民の生活を「先細り傾向のようだ」と吐き捨てて平気でいられるのです。
国の巨大な財政赤字の責任は国民にあるとして、国民に犠牲を押し付ける小泉「構造改革」路線と同じです。いま、「格差社会」の弊害が叫ばれています。その一因は、企業の利益を優先した「リストラ」の横行です。それをマネジメントしたのが他でもない経営コンサルタントです。
こんな「改革」が市民の生活と未来にどんな展望をもたらすのでしょうか?百害あって一利もないことは明らかです。
上山氏はマッキンゼー仕込の経営コンサルタント
自らを「経営コンサルタント」と称する上山氏は慶応大学などで教鞭をとる以前は、アメリカ資本の経営コンサルタント会社「マッキンゼー」の共同経営者でした。
マッキンゼーは「1923年に創業の世界で最も成功している戦略コンサルティング会社」と言われています。そのホームページには「マッキンゼーは、営利企業ばかりでなく、公共機関や非営利組織、政府機関などにもコンサルティングを行っています」とあります。また、同社が2004年の1年間に手がけたプロジェクトの内、公共分野はわずか3%といいます。「構造改革」が地方自治体を席捲する今日の日本の状況を、ビジネスチャンスと捉えても不思議ではないでしょう。
すでに、5月には、大阪・東京で、上山氏を中心に「民間の事業分析手法を行政へ」というセミナーが開催され、「官」から「民」への流れを加速させる先例として大阪市が披露されています。経営コンサル会社の販路拡大への貢献と見るのは皮相な見方でしょうか?しかも、關市長が講演で一役買っています・・・。
タックス・イーターってなに?日本語でいえば「ごくつぶし」?
「タックス・イーター」ってなんでしょう?
直訳すると「税金を食べる者」です。「構造改革」推進論者が、公務員批判を展開し国民との分断をねらう中で、納税者をタックス・ペイヤーと呼び、税金で恩恵にあずかっている人をタックス・イーターと呼んでいました。日経ビジネスでは「住民が納めた税金や公的負担金を、必要以上に消費して生き長らえる人々」と規定しています。日本語では「ごくつぶし」という言葉がありますが、それに近い「批判的」意図が込められているようです。
「道路公団」や「郵政」なども、「既得権益にしがみつく勢力」としてタックス・イーターだとされてきました。
公務員は生活者としてりっぱな納税者だから、タックス・イーターという一方的な批判には納得できませんが、上山氏は、さらに国民も批判の対象に含めて論じています。「構造改革」は国民いじめが本質だから、不思議ではありませんが、上山氏は正直なのでしょう!
上山語録 日経メールマガジン、コラム「続・自治体改革の突破口」
- 霞ヶ関や永田町の思いつきや机上の議論で作った政策には品質上の欠陥が多い。
- 自治体の経営改革こそが改革の近道だ。(2004年9月9日)
- 「マニフェストはピッチャー。行政評価はキャッチャー」であり「補完関係」
- 現場職員と管理部門だけで行政評価をやっていても、戦略性やめりはりは期待できない。(2004年11月4日)
- 「大阪市役所の職員の厚遇の構図は、実は日本国政府の国民厚遇の構図と変わらない。前者の場合は、職員がタックス・イーターとなって市民の税金を食べる。後者の場合は、現役世代がタックス・イーターとなり、将来世代の税金を食べる。」(2005年4月7日)
- 大阪市を丸ごと解析、いわば「人間ドック」のような作業を行った。様々な指標で他都市と比較する。上下水道、道路、地下鉄など大阪市の都市基盤は他を大きく凌駕するとわかった。しかも市役所が市域の25%もの面積を所有する(道路・埋立地を含む)大地主だとわかった。
- どうやら資産の蓄積は豊かだが町も個人も先細り傾向のようだ。ならば資産の流動化だ。余剰の土地・建物・株式を売ったり貸したりする。(2006年3月23日)
猪瀬直樹メルマガ(2006年3月9日)
- 本年3月3日、財界人と学者からなる「市政改革推進会議」が発足した。そこでこの一年の改革の成果を整理・報告した。
- 去年の2月「大阪市役所の改革を手伝ってほしい」と関市長と大平光代助役(当時)から頼まれた。
- 市長と話し、すぐに「この人は大阪市のゴルバチョフだ」と確信した。即座に「改革マニフェスト」をつくるよう提案した。
「マニフェスト改革」の視点から抜けおちたもの---市民のくらし・福祉の向上/「耐震偽装」の反省 公的役割の大切さ 【 大阪市労組 第340号-2006年7月20日号より 】 |
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